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東京地方裁判所 平成9年(ワ)839号 判決

原告

株式会社富張興業

右代表者代表取締役

冨張勉

右訴訟代理人弁護士

山本裕夫

被告

有限会社リバーサイド設備

右代表者代表取締役

秋谷秀己

被告

秋谷秀己

右両名訴訟代理人弁護士

砂川義信

被告

菊池淳

主文

一  被告菊池淳は、原告に対し、六〇〇万円及びこれに対する平成九年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の主位的請求ならびに原告の被告有限会社リバーサイド設備及び被告秋谷秀己に対する予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告菊池淳に生じた費用を被告菊池淳の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告有限会社リバーサイド設備及び被告秋谷秀己に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自六〇〇万円及びこれに対する平成九年二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  主位的請求関係

1  請求原因

(一) 被告有限会社リバーサイド設備の責任について

(1) 被告有限会社リバーサイド設備(以下「被告リバーサイド」という。)は、原告に対し、平成八年八月五日、マクドナルド吾妻橋店、同尾竹橋店及び同新宿西口店(以下「本件マクドナルド三店舗」という。)の各水道工事、空調工事及びダクト工事一式(以下「本件工事」という。)を、その代金につき毎月月末締めの出来高を翌月末日に支払う旨定めて発注し、原告は本件工事を右約定の下で請け負った(以下「本件請負契約」という。)。

(2) 原告は、本件工事を同年九月二五日までに完成させたが、その出来高は、同年八月分が四五〇万円、九月分が七〇二万五九〇一円であった。

(3) 石澤勝四郎(以下「石澤」という。)は、建築設計等を業とし、平成八年七月末ころ原告に本件工事を紹介したものであるが、後記のとおり、本件請負契約に基づく債務を引き受けたことから、原告に対し、同年一〇月九日、本件工事の同年八月分の出来高について、四五〇万円を支払い、その後、同年九月分の出来高について、一〇二万円を支払った。

原告は、右のほかに、本件請負契約の工事代金の残額の支払を受けていない。

(二) 被告秋谷秀己の責任について

(1) 請求原因(一)記載の事実と同じ。

(2) 被告秋谷秀己(以下「被告秋谷」という。)は、被告リバーサイドの代表取締役であるが、本件請負契約締結の際、原告に本件工事の請負代金を支払う意思がなかったにもかかわらず、原告との間で本件請負契約を締結し、原告に対して本件工事代金の未払代金相当額の損害を与えた。

(三) 被告菊池淳の責任について

(1) 請求原因(一)記載の事実と同じ。

(2) 原告と石澤は、平成八年八月三一日までに、石澤が被告リバーサイドの原告に対する本件請負契約上の請負代金債務を重畳的に債務引受をする旨の合意をした(以下「本件債務引受契約」という。)。

(3) 原告と石澤は、同年一〇月二三日、本件債務引受契約により石澤が原告に対して負担する債務七〇二万円の支払方法について、同年一〇月三一日に一〇二万円、同年一一月三〇日に三〇〇万円、同年一二月二七日に二〇〇万円、平成九年一月三一日に一〇〇万円をそれぞれ支払う旨の合意をした(以下「本件分割払約定1」)という。

(4) 被告菊池淳(以下「被告菊池」という。)は、原告に対して、同年一〇月二三日、本件債務引受契約及び本件分割払約定1に基づき、石澤が原告に対して負担する債務を保証した(以下「本件保証契約1」という。)。

(四) よって、原告は、主位的に、被告リバーサイドに対して本件請負契約に基づき、被告秋谷に対して不法行為に基づき、被告菊池に対して本件保証契約1に基づき、各自六〇〇万円及び訴状送達の日の翌日である平成九年二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一)(1) 請求原因(一)(1)は否認する。被告リバーサイドは石澤との間で本件工事の請負契約を締結したのであって、原告との間では請負契約を締結していない。

(2) 同(一)(2)及び(3)のうち、原告と被告リバーサイド間で請負契約が締結されたことを前提とする部分は否認し、その余は不知。

(二)(1) 同(二)(1)は否認する。被告リバーサイドは原告との間で請負契約を締結していない。

(2) 同(二)(2)は否認する。被告リバーサイドは、前記のとおり、石澤との間で本件マクドナルド三店舗の工事の請負契約を締結したにすぎない。なお、被告リバーサイドは石澤に対して、右工事の代金をすべて支払った。

(三)(1) 同(三)(1)及び(2)はいずれも否認する。被告リバーサイドは、前記のとおり、石澤との間で本件マクドナルド三店舗の工事の請負契約を締結したにすぎない。

(2) 同(三)(3)は否認する。なお、石澤が原告との間で請負契約を締結し、これに基づく債務の支払について、本件分割約定1の内容の合意をしたことはある。

(3) 同(三)(4)は否認する。被告菊池は原告と石澤間で右分割払約定が成立したことについて証人となる意思であったのであり、保証人となったことはない。

二  予備的請求関係

1  請求原因

(一) 被告リバーサイド及び被告秋谷の責任について

(1) 金融業を営んでいた三原裕三(以下「三原」という。)は、平成八年七月ころ、石澤に対して金員を貸し付けた。その際、三原と石澤は、右貸金の返済方法について話し合い、石澤が被告リバーサイドから設備工事を請け負い、その請負代金を返済に充てることとした(以下「本件返済計画」という。)。

(2) しかし、石澤は、当時、設備工事の経験がなく、下請業者に工事を請け負わせざるを得ない状況にあったうえ、無資力であったため、被告リバーサイドから設備工事を請け負っても、被告リバーサイドが支払うべき請負工事代金が三原に対する弁済に充てられるとすると、下請業者に対する請負代金の支払が滞り、下請業者に損害が発生することが確実な状態にあった。

(3) 被告リバーサイド及び同秋谷は、右(1)及び(2)の事実を知っていたにもかかわらず、石澤に対して本件工事を請け負わせた(以下「本件元請契約」という。)。

(4) 石澤は、原告に対して、同年八月五日、本件マクドナルド三店舗の各水道工事、空調工事及びダクト工事一式(以下「本件下請工事」という。)を、その代金につき毎月月末締めの出来高を翌月末日に支払う旨定めて発注し、原告は本件下請工事を右約定の下に請け負った(以下「本件下請契約」という。)。

(5) 被告リバーサイド及び同秋谷は、本件下請契約締結の際に、原告が石澤との間で本件下請契約を締結するように原告に対して直接働きかけ、かつ、石澤を介して間接的にも原告に働きかけた。

(6) 原告は、本件下請工事を同年九月二五日までに完成させたが、その出来高は、同年八月分が四五〇万円、九月分が七〇二万五九〇一円であった。

(7) 原告は、本件下請工事代金について、同年一〇月九日、同年八月末現在の出来高である四五〇万円の支払いを受けた。

(8) 原告と石澤は、同年一〇月二三日、本件下請契約の残代金七〇二万円の支払方法について、同年一〇月三一日に一〇二万円、同年一一月三〇日に三〇〇万円、同年一二月二七日に二〇〇万円、平成九年一月三一日に一〇〇万円をそれぞれ支払う旨合意した(以下「本件分割払約定2」という。)。

(9) 石澤は原告に対して、本件下請契約の残代金について、本件分割払約定2後に一〇二万円の支払をしたのみで、残額の支払をしない。

(10) 被告リバーサイド及び同秋谷は、本件分割払約定2の際、被告リバーサイドが受け取るマクドナルド株式会社振出の手形をもって石澤の原告に対する支払いに充てることを立会人として確認した。それにもかかわらず、被告リバーサイド及び同秋谷は、原告が石澤から支払を受けられるように対処することを全くしなかった。

(11) 被告リバーサイドは、石澤に支払うべき本件元請契約の請負代金を、三原に支払って、原告の代金回収を妨げた。

(12) 三原は、所持していた小切手を同年一一月末に取立てに回して石澤を支払不能に陥らせた。これにより、原告は、本件下請工事代金のうち、六〇〇万円が回収不能となり、右と同額の損害を被った。

(13) 右(1)ないし(12)の事実の下では、原告に生じた損害について、被告秋谷は、不法行為に基づく損害賠償責任を、被告リバーサイドは、同被告自身の不法行為又は民法四四条に基づいて損害賠償責任を負う。

(二) 被告菊池の責任について

(1) 請求原因(一)(4)、(6)ないし(9)記載の事実と同じ。

(2) 被告菊池は、原告に対して、平成八年一〇月二三日、石澤が原告に対して負担する本件分割払約定2の債務を保証した(以下「本件保証契約2」という。)

(三) よって、原告は、被告リバーサイド及び同秋谷に対して不法行為に基づき、同菊池に対しては本件保証契約2に基づき、各自六〇〇万円及び訴状送達の日の翌日である平成九年二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(一)(1) 請求原因(一)(1)は不知。

(2) 同(一)(2)は否認する。

(3) 同(一)(3)のうち、被告リバーサイドと石澤の間で本件元請契約が成立したことは認め、その余は否認する。

(4) 同(一)(4)は不知。

(5) 同(一)(5)は否認する。被告秋谷は原告が石澤と本件下請契約を締結するまで原告と面識がなく、本件下請契約を締結するよう原告に働きかけたことはない。

(6) 同(一)(6)ないし(9)は不知。

(7) 同(一)(10)は否認する。

(8) 同(一)(11)は否認する。なお、石澤が被告リバーサイドに対して有する債権を三原に対して債権譲渡したため、被告リバーサイドが三原に対して支払をしたことはあるが、この行為は何ら違法な行為ではない。

(9) 同(一)(12)は不知。なお、三原が所持していた手形を取立てに回したことは、被告リバーサイド及び同秋谷には関係がない。

(10) 同(一)(13)は争う。

(二)(1) 同(二)(1)の事実はいずれも不知。

(2) 同(二)(2)は否認する。

理由

一  主位的請求について

1  請求原因(一)(1)について

(一)  まず、本件工事の請負契約の当事者は誰であるかについて、判断する。

証拠(甲一、二、七、二二(ただし、後記採用しない部分を除く)、乙イ一、六、七五、七六、原告代表者冨張勉(ただし、後記採用しない部分を除く)、被告リバーサイド代表者兼被告秋谷、認諾前の被告石澤)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 日本マクドナルド株式会社(以下「日本マクドナルド」という。)は、平成八年ころ日本電空株式会社(以下「日本電空」という。)に対し、本件工事を発注し、日本電空はこれを請け負った。日本電空は、そのころ、被告リバーサイドに対し、下請として本件工事を発注し、被告リバーサイドはこれを請け負った。

(2) 被告秋谷は、同リバーサイドを発注者として、KIK建築設計事務所こと石澤に対し、平成八年七月ころ、本件マクドナルド三店舗のうち尾竹橋店及び吾妻橋店の各給排水設備工事、空調設備工事及びダクト工事を、その後、新宿西口店の給排水設備工事を請け負わせる話を打診した。

(3) 石澤は、平成八年七月末ころ、原告代表者冨張勉(以下「冨張」という。)に対し、右尾竹橋店及び吾妻橋店の工事を請け負うよう打診し、同年八月五日夜、冨張を被告リバーサイドの事務所へ連れて行った。そして、被告リバーサイドの事務所において、被告秋谷、石澤、冨張及び阿川某(以下「阿川」という。)が、右尾竹橋店及び吾妻橋店の工事について打ち合せをした。その際、工事内容については大まかな話しかなく、詳しい内容は話し合われなかった。現場で工事をする際には阿川の指示に従うこととされ、翌日から工事を始めることとなった。右打ち合せの際、請負代金の支払条件については定められず、その場で契約書を作成することはなかった。

なお、冨張は、被告リバーサイドを訪れるのは右の打ち合せの時が初めてであり、被告秋谷とは面識がなく初対面であったのに対して、石澤とは過去に石澤が設計監理をした住宅の水道工事をしたことがあったほか、石澤の事務所の修繕工事を数回行ったことのある間柄であった。

(4) 原告は、右尾竹橋店及び吾妻橋店の工事を開始したが、平成八年八月一〇日ころ、石澤は、冨張に対して、右新宿西口店の給排水設備工事も請け負うよう打診し、冨張はその工事をすることとした。

冨張は、同年九月二五日付けで、石澤に対し、八月分の工事の出来高として四五〇万円の支払を請求した。そして、石澤は、冨張に対し、同年九月三〇日、四五〇万円の小切手を交付した。

その直後に、石澤は冨張に対し、一〇〇万円を支払う代りに右四五〇万円の小切手を依頼返却にすることを求めた。その際、石澤は、冨張に対し、被告リバーサイドが右一〇〇万円を用意する旨を述べた。冨張は、右一〇〇万円の支払を待ったが、一向に支払われなかったので、小切手を取立てに回し、右小切手は同年一〇月九日に決済された。

(5) 冨張は、本件マクドナルド三店舗に工事代金の最初に支払について、右のような問題が生じたことから、日本マクドナルドの本社に出向くなど支払の確認を関係者に求めた。その結果、原告は、平成九年一〇月二三日、石澤との間で、日本電空の取締役営業部長である川端靖教、被告秋谷及び同菊池を立会人として、石澤が原告に対し、工事代金の支払をする旨の和解契約を締結した。その際、原告と石澤は、ワープロで和解書を作成したが、右書面には、発注者を「KIK建築設計事務所石澤勝四郎」、工事業者を「(株)富張工業」と記載されている。また、原告は、石澤及び被告菊池から、支払人として「KIK建築設計事務所石澤勝四郎」と、立会人兼保証人として「菊池淳」と記載されその横に押印(被告菊池は指印)された富張工業あての手書きの誓約書を徴した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)(1) ところで、原告は、原告と被告リバーサイドが本件請負契約を締結した旨主張し、右主張に沿う甲二二の記載部分及び原告代表者本人の供述部分がある。また、この点に関し、平成八年八月五日に被告リバーサイドの事務所において右尾竹橋店及び吾妻橋店の工事の打ち合わせをした旨、その打ち合わせの際、請負代金を手形で支払う場合には、日本マクドナルド振出の手形に限ることを確認した旨、被告リバーサイドの社員である阿川が現場で工事の指示を出していた旨、石澤は建築士であって工事業者ではないことから、マクドナルド三店舗の工事について被告リバーサイドと原告との間で請負契約を締結したと思った旨の原告代表者本人の供述部分がある。

(2)  しかしながら、右工事の打ち合わせは、その内容が本件工事の概略にすぎないものであって、請負代金の支払条件を話し合ったり、契約書を交わしたりしたわけではないことは前記認定のとおりであるから、この事実を考慮すると、工事の打ち合わせ場所が被告リバーサイドの事務所であることのみでは原告と被告リバーサイド間で契約が締結されたことを認定する事情としては十分とはいえない。また、冨張が、請負代金の支払手形を日本マクドナルド振出の手形に限るとの確認をしたとしても、その確認をした際、前記認定のとおり、本件工事を請け負うよう冨張に打診し、後に和解契約の当事者にもなる石澤も同席したことが認められるほか、被告秋谷は冨張と手形の授受に関して話したことがないとの被告秋谷の供述部分に照らすと、右確認の事実のみでは、原告と被告リバーサイド間で契約が締結されたことを認定する事情としては十分とはいえない。更に、証拠(乙イ五二、五三、被告秋谷)及び弁論の全趣旨によれば、阿川は阿川設備工業の代表者であって、リバーサイドの従業員ではないことが認められ、この事実に照らすと、阿川が現場で指示を出していたとしても、そのことの一事をもって被告リバーサイドが本件請負契約を締結したことを認定する事情とすることはできない。なお、石澤が建築士であることは認められるものの(認諾前の被告石澤本人)、右事実は、石澤が本件請負契約の当事者たりえない事情となるわけでもない。

(3)  かえって、冨張は、石澤に対して、八月分の出来高を請求し、石澤から交付された小切手を取立てに回して工事代金を回収していること、同年一〇月二三日に作成された和解書では、原告に対する発注者は石澤であると明記され、同日作成された誓約書においても石澤が支払人とされており、被告リバーサイドが支払人とはされていないこと等の事情が認められることは前記認定事実のとおりであって、これらの事情のほか、右(一)の認定事実を総合考慮すると、被告リバーサイドと石澤は、平成八年八月八日ころ本件工事について請負契約を締結し、さらに、石澤と原告がそのころ本件工事について下請負契約を締結したものと認めることが相当である。すなわち、本件各証拠によっては、原告と被告リバーサイドとの間で、本件請負契約を締結したとの原告の主張事実は認めることはできず、他の原告の主張を認めるに足りる証拠はないものというほかない。

2  以上の事実によれば、原告の主位的請求は、いずれも原告と被告リバーサイド間が本件請負契約を締結したこと(請求原因(一)(1)記載の事実)を前提とするところ、右前提事実が認められないことは説示のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、理由がない。

二  予備的請求について

1(一)  原告の被告リバーサイド及び被告秋谷による不法行為に関する予備的請求原因(一)の主張は、不法行為の対象が必ずしも明確ではないものの、被告秋谷又は被告リバーサイドは、石澤に資力がなく、工事代金の支払をうけてもこれが三原に対する債務の弁済に充てられ、下請業者への支払がなされないことを十分に知っていたのであるから、右事実を秘匿することなく原告に告知し、原告に損害が生じないよう注意すべき義務があるのにあえて右注意義務を怠り、石澤に本件工事を発注したうえ、原告に対し本件下請契約を締結するよう働きかけ、本件分割払約定2に立ち会って右合意を締結させ、石澤に支払うべき工事代金を三原に支払ったものであるから、不法行為責任を負うと主張するものと解される。

(二)  そこで、原告の右主張について判断するのに、原告の右主張に沿う証拠(甲二一、二二、原告代表者)もある。

しかしながら、先に認定した事実に加えて、証拠(乙イ四、七、一二、七五、七六、証人三原、石澤(ただし後記措信しない部分を除く)、被告秋谷)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 金融業を営んでいた三原は、石澤に対して、平成八年七月ころ、金員を貸し付けた。当時石澤は経済的に苦しい状態にあり、三原もそのことを石澤から告げられたが、石澤が三原に対し、三原からの借入金で高利の借入金を返済したうえ、仕事をして売上げを上げればいくらでも返せる旨述べたため、三原は、石澤が売掛金を有している会社数社に対して石澤が真実売掛金を有しているかを確認し、石澤の右売掛金債権から返済を受けることを予定して金員を貸し付けた。

(2) 被告秋谷は、同年七月ころ、石澤が経済的に窮していることは知っていたが、石澤が、当時、本件下請工事のほかにも被告リバーサイド発注の仕事をしており、被告リバーサイドとしても石澤に順次仕事を発注することを予定していたこともあって、石澤がその後も業務を続けていくことが可能な状態であると考えていた。

(3) また、被告秋谷は、同年一〇月二三日、被告リバーサイドの代表者として、原告と石澤間の本件分割払約定2に立ち会った。

(4) 石澤は、三原に対して、同年一一月二五日ころ、石澤が被告リバーサイドに対して有する債権を譲渡し、同月二六日ころ、被告リバーサイドに対し、右債権譲渡の通知をした。そのため、被告秋谷は、石澤に対し、三原に支払ってよいか確認の電話をした。その際、被告秋谷は、石澤に対し、三原に支払ってよいか確認の電話をした。その際、被告秋谷は、石澤に対し、下請業者への支払が可能かを確認したところ、石澤は、建設業の登録を受けたために融資がおりることになったこと及び他の現場の仕事で一五〇〇万円から一六〇〇万円の支払を受けることになったので、これを下請への支払に充てるので問題ない旨を答えた。そこで、被告リバーサイドは、三原に対して、同月二八日、八八九万五六二四円を支払った。

なお、右の点に関し、三原の石澤への融資の際、被告秋谷はこれに関与し、被告リバーサイドからの請負代金が三原への返済に充てられることを知っており、「石澤が下請への支払ができなくなったら下請をつぶせばいいと被告秋谷が発言した」との石澤本人の供述部分及び甲三の記載部分もあるが、右はあいまいな点が多く、これと反対趣旨の被告秋谷の本人尋問の結果に照らしにわかに信用できない。そして、他に、当時三原と石澤の貸借関係を被告秋谷が知っていたこと、とりわけ、被告リバーサイドからの請負代金を三原への返済に充てるとの約束がありそれを被告秋谷が知っていたことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  右認定の事実によれば、被告秋谷は、平成八年七月ないし一〇月ころ、石澤が資金繰りに窮し、下請業者への支払が不可能であり、石澤の下請業者に損害が生じることが確実であるとの認識までは有していなかったものというべきであり、この事実に照らして考えると、被告秋谷又は同リバーサイドによる①本件工事の発注、②原告による本件下請契約締結への働きかけ、③本件分割払約定2における立会、④三原への工事代金の支払の各行為を違法なものということはできず、他に原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであるから、原告の予備的請求のうち、被告リバーサイド及び同秋谷に対する請求は、その前提を欠き、理由がないといわなければならない。

2  次に、被告菊池の保証責任の存否について検討するのに、証拠(甲一、二、七、二二、乙イ六、原告代表者冨張、認諾前の被告石澤)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  石澤は、原告に対して、本件マクドナルド三店舗の給排水設備工事等を発注し、平成八年八月一一日ころまでに、原告との間で、右工事について、請負契約を締結し、原告は、右工事を、同年九月二五日までに完成させた。

(二)  原告の石澤に対する右工事の請負代金債権の残額は、同年一〇月二三日現在において七〇二万円であったところ、その残額の支払方法について、原告と石澤の間で本件分割払約定2が成立した。

(三)  原告は、平成八年一〇月二三日、被告菊池との間で、本件保証契約2を締結した。その際、原告と被告菊池及び石澤は、「誓約書」と題する手書きの書面を作成した。右書面には、本件分割払約定2の内容のほか、支払人として石澤の、立会人兼保証人として被告菊池の氏名が自署され、指印(石澤は押印)が押されている。

なお、右の点に関し、被告秋谷は、誓約書には「保証人」という文言はなかったかもしれない旨供述するが、右供述はこれと反対趣旨の前記各証拠に照らし採用できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告の被告菊池に対する予備的請求は理由がある。

三  結論

よって、原告の被告らに対する主位的請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、予備的請求は、被告リバーサイド及び被告秋谷に対する請求は理由がないからいずれもこれを棄却し、被告菊池に対する請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条但書、六一条を、仮執行の宣言につき二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官足立謙三 裁判官中野琢郎)

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